初夏。こころの冒険に出かけた休日

2011/05/29

本で得る知識や巡らせる想像の時間も有意義ですが、やはりリアルに物事に触れた時に生まれる感覚は、何にも代えがたい記憶になるものです。見て、嗅いで、聴いて、触れて…様々な感覚を覚えた5月の休日。人として、またデザイナーとして、こうした体験を与えてくれる時間がやはり、生きる糧の大きなひとつになっています。

まずは先日参加させていただいた「茶の湯チャリティーLOVE」での体験。台湾茶人の珮如(ぺるー)さんと、「香白韻」主宰・中国茶事家の浦川園実さんが開かれた台湾茶席「寄與愛茶人」に参加しました。

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 まずは茶葉の香りを試した後、少量ずつを何度も湯を足しながら飲み進めていくスタイル。珮如(ぺるー)さんが仰った「森林の中にいる気持ちになりますよね」というのはまさに!茶葉の香りが一瞬にして森へと導いてくれるかの様です。

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 最後には、すべて手で摘まれているという葉の様子を拝見します。茶の出来の良し悪しを見る行為のそうですが、香って、食して、姿を見る…植物のすべてを堪能することで、心も身体も浄化されるような時間でした。

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 続いてはヨーロッパスタイル。翌週は香りに特化して「enfleurage(アンフルラージュ)」の世界を体験しに大阪へ。講師は「Atelier Michaux」を主宰されている 鞍田 愛希子さん。アンフルラージュとは、18世紀末頃からフランスで行われていた精油の抽出方法のひとつ。私も初めての体験でしたが、花の香りの成分を油脂に吸着させるこの方法は熱や圧力による妨げなないため、植物の本来持つ香りが凝縮されます。

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 同じ「薔薇」の名を持っていても、品種の違いによって甘酸っぱかったり、重みのある甘い香りであったり個性が様々。毅然とした人の弱音を初めて聞いたり、同志だと思っていた友人に男の色気を感じた瞬間(?)のような、今まで感じることができていなかった花の表情にドキっとさせられます。今では、その手間の多さや他技術の発展からこの手法はほとんど使われることがないそうなのですが、こうした機に経験ができたことはとても貴重な体験になりました。


夜には場所を「graf dining: fudo」へと移動して、哲学者・鞍田崇さんとgraf代表・服部滋樹さんのトークイベントを拝聴。テーマは「the sense~体感~」、1月に発表された「TROPE」(身体と道具の意図せぬ出来事)の背景に迫る、道具と人との関わりから見る暮らしのための豊かさのお話です。

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 そもそも「暮らし」とはキーワードとして取り上げられるような、出しゃばる存在ではないはず、という意外なコメント。道具が多様化しすぎた今、暮らしの中で自分の能力を発揮する機会は薄まり、つまりは“暮らすための力”が低下して行くのではないか?という視点には大きく共感しました。
「TROPE」は、そんな道具の価値を再考するプロジェクト。非日常において知性を育むことが、日常を高進するという観点から舞台アートで表現された公演「TROPE」の世界にも、とても刺激をいただきました。

 

そして、ここ数日の休日の体験をすべて繋げていただいた思いがしているのが剣士・黒澤雄太さんと作家・関根直子さんの対談。東京都現代美術館で開催された「Nearest Faraway 世界の深さのはかり方」の記念対談として開かれたトークショーに伺いました。
主に鉛筆を使い、描き/消すという行為の反復によって生み出される関根さんの作品は、どこか見覚えのあるような風景、いつかに記憶した感覚を思い起こさせるような不思議な世界を持っています。


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関根さんのコメントでとても興味深かったことが、作品のコンセプトは自分の経験の交差によるもの、つまりは「コンセプト=感覚の子ども」であるというお話。制作過程はいつも、自分の方法を頼りに冒険をしてるような時間なのだそうです。始めに完成図を可視化するような構成を描くわけではなく、明確なイメージを持たずに、見えないものを手で確かめていくような感覚という…これは植物に触れ、それを頼りに無言の対話を繰り返すいけ花の世界に通じるものを感じました。

また、黒澤さんからは・・・様々な情報が目に入ってきて、見えてしまう現代。これが視覚情報に頼りすぎて意識や思考までもを距離を近いものに置かせてしまいがちである、というお話。昔は夜になると暗くなり、月明かりを眺めることで、意識を遠くまで運んでくれたのではないかと。

見たこと、聞いたことを記憶するだけでなく、知った気になって見えていないものがあるのではないかと疑ってみたり、そこに新たな価値を見つけ出したり・・・そうして自分の中に得た感覚を租借する時間の大切さに気づかされた5月の休日。

人でも植物でも、表面だけでは見つけることができない魅力を見つけ出して愛したい、そして常に感覚を刺激する作品を生み出したいと、静かに決意したのでした。